川原「……探偵ごっこかなんか知らねえけど、余計なことしてるからこんなことになんだろうが……! 死んでてもおかしくなかったんだぞっ」
乃々「川原くん! お願いっ!」
川原「来栖……」
乃々「お願い……」
川原「…………」
※ ※ ※
結人「あ。お帰り、ですか?」
川原「え? あ、ああ。お邪魔しました。ええと、君は?」
結人「乃々姉ちゃんの弟で、結人っていいます」
川原「ああ、弟……」
結人「血の繋がった兄弟じゃ、ないですけど」
川原「そうか……。来栖のこと、よろしく頼む」
結人「はい。……ところで、あの、あなたは乃々姉ちゃんとは、どういう関係ですか?」
川原「なっ!?」
結人「す、すみません。お姉ちゃんに、さりげなく聞いてこいって言われて……。あ、お姉ちゃんって言っても、乃々姉ちゃんじゃなくて。もうひとり、結衣姉ちゃんっていう、僕の一個上のお姉ちゃんがいて。そっちのお姉ちゃんから言われたんです。って、これを話したら、ちっともさりげない感じじゃないですよね。すみません……」
川原「…………」
結人「お姉ちゃんは、別に、変な意味で、僕に質問させたわけじゃ、ないと思うんです」
川原「どういうことだ?」
結人「乃々姉ちゃんのことを、心配してるだけっていうか。変な虫がついたら大変だ、って」
川原「へ、変な……虫……」
結人「あ! あなたが、そうだって、言ってるわけじゃなくて……!」
川原「は、はは、はははは……そ、そうだよな。分かってる。分かってるよ」
結人「すみません……」
川原「いや、謝らなくていい。自己紹介がまだだったな。俺は、碧朋学園生徒会副会長の川原だ。君のお姉さんと同じ、生徒会のメンバーなんだ」
結人「そうでしたか」
川原「来栖が襲われたのは、俺のせいでも……あるかもしれない」
結人「えっ? それって、どういう……」
川原「お姉さんは、新聞部が町に勝手に設置したカメラを回収しに行ったんだよ。そのカメラのことを君のお姉さんに教えたのは、俺だ。まさか、それを知ってひとりで取りに行くなんて、予想もしてなかった……」
結人「…………」
川原「すまない」
結人「いえ」
川原「…………」
結人「拓留兄ちゃんが、いつも家にいてくれれば、こういうとき、頼りになるんだけど……」
川原「そうか……。宮代は、君のお兄さんでもあるわけだ」
結人「はい」
川原「こんなことを弟の君に言うべきじゃないとは思うが。宮代は、学校でも来栖に迷惑をかけてばかりだ。宮代本人に、君からも、忠告してあげてくれ」
結人「はあ……。ところで、あの」
川原「ん?」
結人「乃々姉ちゃんは、あなたがお見舞いに来るまでは、自分の部屋で寝てたんですけど。あなたが来たって聞いて、1階にある病院のベッドに移ったんです」
川原「え、そ、そうか。それが、なにか?」
結人「乃々姉ちゃんの部屋、入りたかったですか?」
川原「な、なんだって!?」
結人「乃々姉ちゃんの部屋、すごくいい匂いがするんです。僕、あの部屋の匂い、けっこう、好きなんです。優しい匂いっていうか」
川原「そ、そうか……」
結人「興味ありますか?」
川原「え!? ええと……俺は、そろそろ失礼するよ」
結人「川原さん」
川原「…………な、なんだ?」
結人「乃々姉ちゃんの部屋に、入ってみたかったですか?」
川原「くっ! そ、その質問も、君のもうひとりのお姉さんの差し金なのか?」
結人「いえ。これは、お父さんが、聞いてこいって」
川原「お、お父さ……ん!? 来栖の、お父様が!?」
結人「はい」
川原「…………な、なぜ、そんな質問をさせたのか、お父様は、なにか、言っていたか?」
結人「ええと、言ってましたけど……教えちゃって、いいのかな……」
川原「教えてくれ! 来栖のお父様がどういう考えで俺にそれを聞いたのか、知りたいんだ!」
結人「……じゃあ、言いますけど」
川原「ああ、なんて?」
結人「“面白そうな反応をしそうだから”って」
川原「…………あ、そう」
結人「お父さん、そういう冗談、好きだから。僕は、よくないなって思ったんですけど。すみません」
川原「いや、まったく全然、問題ない……。じゃ、じゃあ、帰るよ。お父様や、お姉さんに、よろしく」
結人「はい。乃々姉ちゃんのお見舞いに来てくれて、ありがとうございました」