伊藤「ふわぁぁ~。この店に来てもう4時間以上か……。座りっぱなしで、ケツが痛くなってきた」
世莉架「まだ日付が変わってないんだから、なんとかもう少し粘らくちゃ……あっふぁ~。って、真ちゃんのあくびうつっちゃった」
うき「…………ん、ぅ」
乃々「うきちゃん、眠いなら横になったら?」
うき「え? あ、いえっ、大丈夫ですっ」
乃々「うきちゃんは、このお店に来るのってはじめてでしょう?」
うき「は、はい。オシャレなお店ですね」
乃々「カフェLAXっていうの。私たちはよく来るんだけど、けっこう穴場なのよ」
世莉架「こんなにたくさんで一緒に来たのってはじめてだよね。私でしょ、それとタク、のんちゃん、真ちゃん、華ちゃん、ひなちゃん、うきちゃん……で、7人! なんだか遠足みたいでワクワクしちゃうなぁ」
雛絵「呑気ねえ……。なんのためにこうして集まってると思ってるの? こっちは、いつあのパイロキネシス女が襲ってくるかって、気が気じゃないのに」
世莉架「あ、うん、そうだよね……。怖い人に襲われたりしないために、こうしてみんなで集まって今日をやり過ごそうっていう会だもんね。気合いを入れ直そう。おー!」
乃々「ねえ、そう言えば、……拓留、さっきトイレに行ったきり、出てこないわね。もう30分くらい経ってるのに」
伊藤「大だろ?」
華「ん」
雛絵「大でしょうね」
華「ん」
乃々「だとしても、長すぎない? どうしたのかしら」
伊藤「さすがに自分の命が狙われてるかもって状況じゃ、お腹も痛くなるんじゃないか?」
雛絵「本当に、それだけでしょうか?」
乃々「え?」
雛絵「宮代先輩がお腹を壊したのには、別の理由があるんじゃ?」
世莉架「別の理由って?」
雛絵「なにか変なものでも食べたとか」
世莉架「ええー!?」
雛絵「だって宮代先輩、一人暮らしでしょう? どうせろくなもの食べてなさそうだし」
乃々「あり得るわね。食事に気を遣うようなタイプじゃないから」
伊藤「それを言うなら、単純に食べ過ぎたんじゃないか? 俺たち、この店に来てから時間稼ぎのためにけっこうな量のメニューを食べたぜ」
世莉架「一番たくさん食べてたのは華ちゃんだけどね♪」
華「んぅ……」
乃々「拓留、本当に大丈夫かしら。私、ちょっと様子を――」
雛絵「来栖先輩、待ってください。ここは、伊藤先輩にお願いしましょう」
伊藤「は? なんで俺?」
雛絵「仮に、宮代先輩がトイレで下半身丸出しのまま苦しんでいたとします」
伊藤「仮に、じゃなくて、間違いなくそうだろ」
雛絵「その状況で女子に声をかけられたら、宮代先輩はどういう気持ちになると思います?」
伊藤「……恥ずかしい、だろうな」
雛絵「プライドを打ち砕かれて、ますますトイレから出にくくなっちゃいますよ」
伊藤「あいつ、意外と見栄っ張りだしな……」
雛絵「それに、単にお腹を壊しているだけならいいですけど……最悪な状況になってる可能性だってあり得るんですよ」
伊藤「最悪な状況?」
雛絵「すでに宮代先輩がトイレで殺されている、という状況です」
乃々「ええっ!?」
華「んんっ!?」
うき「ひっ……」
伊藤「いや、いやいや、さすがにトイレで襲われたら物音ぐらいするだろ! 俺たちが気付かないはずがない!」
雛絵「常識なんて通じませんよ。私たちを狙う犯人だって能力者――ギガロマニアックスかもしれないんですから」
伊藤「…………」
雛絵「その場合、宮代先輩が下半身丸出しで死んでるかもしれません。私たち女子を、その第一発見者にさせたいんですか?」
華「んぅ……」
伊藤「そりゃ、死んでも死にきれないな。見る方も、見られる方も」
雛絵「だから伊藤先輩が様子を見に行くのが一番いいんです」
乃々「有村さん! そんな不吉なことを言わないで」
雛絵「すみません……」
乃々「そういうことなら私が様子を見てくるわ。私は家族なんだから、拓留の下半身ぐらい、見慣れてるもの」
伊藤「!?」
華「!?」
雛絵「え……見慣れて……え……?」
乃々「ドア越しに、ほんのちょっと声をかけるぐらいでしょう? 私、見てくるわ」
世莉架「待ってのんちゃん。だったら私が! 私だって小さい頃は一緒にお風呂入ってたから、タクの下半身、見たことある!」
伊藤「!?」
華「!?」
雛絵「そ、そうなの……」
乃々「それなら、ふたりで見に行く?」
世莉架「あ、そうだね。うん、そうしよう」
乃々「本当に拓留は世話が焼けるんだから」
世莉架「私やのんちゃんがいないと、なんにもできないよね」
伊藤「くっ、宮代……羨ましいと同時に、ちょっと同情するぜ……」
うき「どうしてですか?」
伊藤「口うるさい家族ってのは、思春期の男子にとっては、鬱陶しいものなんだよ……。ほっといてくれって、思っちまうのさ……。ましてや相手が、家族みたいな付き合いしてる同年代の異性だったりしたら、なおさらな。男心は、複雑なんだ……」
うき「そうなんですね……。私も、気を付けます」